監督を務めるとなったときのお気持ちをお聞かせください。

原作のプロットを読んだときに、武田先生の持ち味、本質が薫る題材だと思いました。とても日常的ながらもなかなか題材として取り上げないような新鮮な切り口が印象深くて。原作の持つ、透明な、作り物ではない空気感を映像にしてみたいと思いました。
シリーズ演出として『ユーフォ』シリーズと共にやって来たので、この作品をとてもよく知っているからこそ、原作から、今回のような切り口もあるんじゃないかと思いました。そういったことをシリーズの石原監督やスタッフのみんなと話し合いまして、この映画を制作させていただけることになったんです。
今回は集団ではなく個を描くお話なので、小さな変化を積み重ねることを大事にしたいと思いました。

物語の中心となる、みぞれと希美についてお聞かせください。

希美は明るくて元気で、音楽が大好きでフルートを吹いている活発な女の子です。そんな希美にみぞれは声をかけられます。今までひとりぼっちだったみぞれは、希美に声をかけられて自分の世界を引き上げてもらうんですよね。その時にみぞれは刷り込みされたというか、希美が自分の世界の全てになるんです。
希美の存在が自分の世界だと思っているみぞれが、希美に抱いている「好き」の形と、希美がみぞれに対して抱いている「好き」の形がどうしても噛み合わない、思うことの形の違いを丁寧に掘り下げていく作品になっています。お互いに好きではあるし、興味を持たずにはいられない関係ですが、その形がどうも噛み合わない……でも、それは決してすれ違っているだけではないと思うんです。例えば、大きさの違う歯車同士がある一瞬動きが重なるような、そういった二人が重なる瞬間を希望的に描きたいと思いました。

とても繊細な作品の雰囲気を感じます。

原作から受けたこの二人の物語の印象をそのままフィルムに落とし込んでみたいというのがまずありました。それと、みぞれと希美の悩み、成長にぐっと寄り添っていったときに、ささやかな変化や気づきを取りこぼさないように、とですね。この映画の内容に寄り添ったときにベストな形になるように、と思いました。キャラクターデザインの西屋さんともこのようなことを話し合って、上げてくださったデザインが今回のデザインです。決定になるまで何通りか描いてくださったのですが、ご自身のなかで一本、この方向でいきたいというのがあったので、大きくは変わっていないです。顎が尖っているか丸いかなど、ほんのちょっとの変化で印象が全然違ってくるのが興味深かったです。結果、線の細さ……限りのある儚さが感じられる、最高の形になったと思います。

色使いも落ち着いた雰囲気が感じられます。

今回「少女たちの溜め息」のようなそっとした、ほんのささやかなものを逃すことなく描きたいと思っていました。ですので、例えば目線をずらす様さえも彼女たちの思いから生まれてくるものとして大切に、取りこぼさないように。息をひそめてじっと記録していく、というようなイメージです。まるでガラス越しに彼女たちをのぞいているような、ふれると消えてなくなってしまいそうな脆さや儚さを感じる色味を大切にしました。

脚本の吉田玲子さんとはどのような打ち合わせをされましたか?

吉田さんが描かれる少女の世界というものにとても興味がありました。原作の流れも出来上がっているので、あまり窮屈に打ち合わせるような感じではなかったと思います。
希美が信条としている「物語はハッピーエンドがいいよ」がとても良いと思ったので、ハッピーエンドに照準を合わせていくような話合いをした感じでしょうか。

お二人で意見が異なる部分などがございましたか?

たぶん大きくは無かったと思います。当り前のことではあるのですが、私と吉田さんの見方って必ずしもおなじではなくて、でも、そのおかげで、作品世界への理解が一方的にならず、冷静に取り組むことができます。吉田さんとはもう10年もご一緒しているのですが、この距離感がずっと心地よく保たれているので、いつも新鮮なかんじがしています。

作品を制作していくうえで、どういった部分に特に気を配られたのでしょうか。

この作品は繊細な心情、心の積み重ねが重要なので、「悲しいから悲しい表情をする」と言う風に記号的な芝居付けをしないよう気を付けました。
たとえばフルートの希美は、口のはじを上げて目をほそめることで相手には笑っていると認識される。というようなことを考えている子なのですが、裏を返せば「わらう」ことをして、相手と自分の間にある距離を取り繕っているわけで。そのようなことを思いながら一歩一歩日々を積み上げている彼女たちの尊厳を守れるよう、表現の近道を選ばないことが大切な事でした。

そういった難しい芝居に、スタッフの戸惑いはありましたか?

私が想像していたような戸惑いはありませんでした。繊細で丁寧に積み上げる作業を得意とするスタッフが揃っているので、この作品が進もうとしている方向については有意義な打ち合わせができたと思います。例えば会話の芝居だと、ひとつひとつのやりとりがその人たちの「初めて」であることが大切だな、とか。人が話して、それを聞いて、咀嚼して、理解して、答えを返す。みたいな、普通の会話を目指しました。

今回は童話「リズと青い鳥」の物語のために作られたオリジナル楽曲という設定で、吹奏楽曲「リズと青い鳥」が作曲されています。曲を聞かれていかがでしたか?

とてもシンプルで、人の心に沁み込んでいく素晴らしい音楽だと思いました。映画はその一回の出会いなので、「皆さんの心に沁み込むような、フレーズを覚えて帰っていただけるもので」という思いのもと、松田彬人さんが素晴らしい楽曲を作られました。
この吹奏楽曲『リズと青い鳥』は石原監督の久美子二年生編と、この作品とをつなぐ共通の楽曲になりますので、シリーズから音楽を担当されている松田さんにおねがいしています。皆さんのもとへお届けできるのが楽しみです。

練習やレコーディングに立ち会われて、いかがでしたか?

打ち込みのラフ音源でも感動しましたが、やはり生の演奏はすごく温かくて、空間も感じられて……。ブレスをとても深くとっていたり、大いに歌い上げたり。心が宿る演奏に胸が詰まりました。

オーボエとフルートの演奏者のお二人とはどのようなお話をされましたか?

お二人ともとても熱心に話を聞いていてくださったので、私も気持ちよくなってついつい喋ってしまいましたね(笑)。演奏していただく前はお二人とも演奏者であって、役者ではないのだから「最初の2音だけ吹いてやめてください」みたいに具体的にお伝えするのがいいのかと思っていたのですが、実際はとても気持ちを乗せてきてくださって、すごく芝居をしてくださいました。作画の参考用に映像も撮影させていただいたのですが、とても良い表情をしてくださるんですよね。たとえば、フルートの希美の負けん気と、でも抗えない瞬間をかみ砕いて、読み解いてくださっていて、本当に良い表情をしてくださっていて、これは作画も負けられないなと思いましたね。刺激を受けました。
レコーディングに参加させていただくのも久しぶりだったのですが、(吹奏楽監修の)大和田雅洋先生と(音楽プロデューサーの)斎藤滋さんの絆が初期のころよりも格段に深まっていて、シリーズを通してのお二人のやり取りを想像して、積み重ねって良いなとじんわり感動しました。

音楽は牛尾憲輔さんが担当されていますが、オファーされた経緯をお教えください。

牛尾さんは、緻密で繊細でそこに人が介入しないような温度感で音を積み上げていかれる方でありながら、一方でものすごくドラマティックに感情が振れてしまった場合にも素直に向き合って音楽を作られる方であると思っていて。彼の中身を構成するものは総じて「静か」であり、ただその爆発を待つ、衝動みたいなものを持ち続けた音楽家なのだと感じています。
そのような方が、この少女たちの世界に音をつけたらいったいどのような音楽世界になるのだろう、きっとなんともいえずきれいなんだろうなぁ。と思い至り、お願いしました。
牛尾さんに前作のとき、「またご一緒しましょう」と言っていただいたのを真に受けた結果でもあります(笑)。

牛尾さんとはどのような打ち合わせをされましたか?

シナリオを読んで、「息をひそめて彼女たちをじっとのぞいているようだった。」という風なことをはじめにおっしゃったとおもいます。
そこから、周りの物たちの目線にフォーカスして行った結果、舞台になっている学校にあるものの音を音楽にしよう!となりました。そのあと、実際に学校にいって、そこにあるものをたとえば壁とか、ガラス窓とか。そういったものをなでたりぽこぽこ叩いたり、ときには弓で弾いたりしていらっしゃって。変わった人だなぁ、と思いながらわたしは自分の仕事のためにロケハンをして先に帰りました。

キャストの皆様とはどのようなお話をされましたか?

TVシリーズ1期から引き続きご出演いただいている皆様にとっては3年以上のお付き合いだと思いますが、「一旦改めて」という心持ちで演じていただきたいとお伝えしました。キャラクターたちの本質が変わる訳ではないけれど、「チューニング」を『リズ』に合わせていきましょうとお話しましたね。

音響についてはいかがでしょうか。

音響チームの方々といろいろ楽しいお話をしています。彼女たちがいる学校という容器の扱いをどう解釈しようか。とか、あとは劇中劇のようなかたちで童話『リズと青い鳥』の世界が出てくるので、みぞれたちの本編部分とのすみわけとか。。。
現在鋭意制作中ですが、面白い話ができているので、形になるのが楽しみです。

主題歌を担当する、Homecomingsへオファーされた経緯をお教えください。

彼らの音楽の、前進していくようなコード進行に甘切なさが入ると言うか……。ガンガン前に進むだけではなくて、ちょっと後ろに戻りながら進んでいくのが、思春期の最中っていうグルーヴ感にぴったりだなぁと思っていました。彼らの好きなものとか音をみぞれと希美のものがたりに乗せてもらえたら、きっとたまらない青春映画になるだろうなぁ…と思いおねがいしました。

主題歌の制作にあたって、監督からオーダーされたことはありましたか?

オーダーというか…。「すきです!あなたたちのこういうところとかこういうところとか、あとこういうところも!」みたいな話をしていたんじゃないかなぁ…。
その中でこの作品が描いているものなんかを共有していく感じでした。話がひと段落したときにメンバーの福富(優樹)さんが「大体見えてきました。」とおっしゃったので、おとなしく席に戻りました(笑)。

完成された主題歌をお聞きになられて、いかがでしょうか。

彼らがいつもレコーディングしているスタジオでデモ音源を聞かせていただきました。
なんだかうまい言い方が見つからないのですが、そのスタジオが学生時代のたまり場のともだちの家ってかんじの、言葉通りものすごくアットホームな場所で。そこでまだ仮で録った音源を聞かせていただいて、その音源の音も良いわけではなくて。福富さんはそのあいだトイレに…って言って別の部屋にかくれてて。。。その時の空気全部ひっくるめてたまらない感触でした。いわば青春感フルスロットル!て感じで。ジョンカーニー監督の映画の中の世界に入ってしまったような気分でした。良いも悪いもない。ただもう、これなんだ!って思いました。わかりやすくいうと、感動しました。

最後に公開を楽しみにしてくださっている皆様へメッセージをお願いします。

映画『リズと青い鳥』では、偶々みぞれと希美という二人の女の子の物語として描いていますが、誰の心にでもきっとある、形を変えてでも感じたことがある「思い」を描いた作品だと思います。100人の方がご覧になったら、100通りの感想があるんじゃないかなぁと思うので、観た後にちょっと語らってみたくなる、そんな映画になっているのでは、と思います。どうぞ、公開をお楽しみに。

ありがとうございました!

ページトップへ